「シリコンバレーの起業環境」宮田徹

The Voicers Report は、世界各地で活躍する10人のゴーゲッターで構成された The Voicers が各々の活躍の現場から情報発信をしています。
今回は、シリコンバレーのスポ根起業家こと宮田徹さんです。

 

さて、第2回目となる今回のコラムは、予告通り 「シリコンバレーの起業環境」 について皆さんにご共有させて頂きます。
前回の 「シリコンバレーに見る不釣り合いの融合」 の執筆中は、“シリコンバレーにて起業の準備中” というステイタスでしたが、おかげさまで2016年12月に新会社が立ち上がりました。
私は日本で2社、シンガポールとインドネシアで夫々1社ずつ、過去に起業をした経験があるのですが、今回は初めてアメリカでの起業を経験しました。
このプロセスを、過去のそれらと比較しながら振り返りたいと思います。

Photo 1

空気の違い?

まず、そもそも空気が違うのだ。
私は1994年に日本の大手広告代理店に入社したのだが、その頃は海外ロケでのCM撮影をしたがるクリエイティブ・ディレクターがやたらといた。
理由を問うと 「いやー、空気が違うんだよね。ぜんぜん」 と言う。
映像を撮る訳だから、空気は映らないし、関係ないと思うのだが。
曰く 「違うのよ。バキーっとね。分かんないかなぁ」 である。
全然わからない。

しかし、こと 「起業する」 「新たに事業を始める」 ということに限った視点から見れば、ここシリコンバレーの空気は違うのである。
そう、ぜんぜん違うのだ。
日本にも、それ以外のアジアにもない空気が、ここにはある。

例えば、周囲の反応一つにしてもそうだ。
何か新しいことを始める人に興味があるし、応援しようというスタンスが基本である。
誰かが何か新しいアイデアを思いついて、それを発言する。
すると、周囲がまるで 「自分のこと」 のように、色々と意見やアドバイスを投げかける。
本質的な課題や中核を突くような 「芯を食った質問・提案」 が出て、アイデア・レベルの段階で構想が少しずつ洗練されていく。
そして、起業家たちは厳しい質問への応答の仕方にも慣れていく。
言わば 「愛のある緊張感」 を通じて、起業家も事業そのものも鍛えられていく。

そういう 「愛のある緊張感」 を経験する機会・環境が、周囲を見渡せば幾らでもある。
そこで展開される議論には全ての参加者がワクワクするような雰囲気・コミュニケーションが存在する。
ごく純粋に受け取るなら、周囲が期待感を持っている “ウェルカムな空気” が感じられる。

さて、日本ではどうだろうか?
私の実体験でいえば 「それ、ビジネスモデルは成り立つの?」 「そんなことして、食べていけるの?」 「せっかく良いポジションに就いたんだから、もったいなくない?」 等のお言葉を頂戴した。
どれも、親身になって考えてくださった有難いアドバイスだ。
正に、親のごとき無償の愛である。
でも、基本的なスタンスは、やっぱり、ちょっとネガティブなのだ。

こんなことがあった。
2003年の年末、私が日本で 「スポーツマーケティング×教育」 という軸で起業した際のこと。
応援してくださる方が、とあるプロ・スポーツリーグの元コミッショナーを紹介してくださった。
この御仁は 「君ね、スポーツが好きなら週末の余暇として楽しんだら良い。仕事をするなら、お金になることを考えるべきだよ」 というアドバイスをくださった。
私が、挨拶以外の一言も発する以前に。
果たして、そこに愛はあったのだろうか…。
いずれにしても、あまり “ウェルカムな空気” だったとは言いづらい。
そう、やっぱり空気が違うのだ。

東南アジアでの起業は更に過酷だ。
「何か新しいアイデアを思いついて、それを周囲に向けて発表した」 とする。
仮に、そのアイデアが斬新で、市場からも期待と評価を得られる可能性があったとしよう。
次に何が起こるかは、想像に難くないだろう。
そう、事業モデルの盗作が起きるのである。
正に、盗難アジアだ。

空気が違うシリコンバレー?

志はあるのか!

さて、私個人の体験に限らず、俯瞰的に起業にまつわる環境を見渡しても、世の中の受け容れ方には似たような空気を感じる。
シリコンバレーがウェルカムな空気を醸しているのに対し、日本では胡乱な者を見るかのごとく、「なんか、またベンチャー起業家が出てきたの?」 的な “歓迎されない空気” だ。

この差は恐らく、起業する側の根本的な意識、意義あるいは起業の目的の差に因るものだと私は考える。
つまり、歓迎されない空気が生まれた原因があるのだ。

シリコンバレーで起きている新しい事業・企業に関して言えば、「世の中を便利にする」 「既に存在する市場をイノベートする」 などの、既存のシステムを根本から覆してドラマチックな変革をもたらす起業が中心である。
前回のコラムでご紹介したシェアリング・エコノミーもしかり。
また、電気自動車で市場に切り込み、自動運転機能を搭載したことでも有名な自動車会社 「TESLA」 の創業社長であるイーロン・マスクの構想・展開も、壮大なテーマを目的としているのだ。

この様に 「生活の質を劇的に改善する」 あるいは 「地球レベルでの大きな変革をもたらす」 という、言わば志を持って事業を始める起業家たちが多い。
たとえそれが、まだまだ始まったばかりの小さな事業で、創業者にとって初めての起業だとしても。
この点が、シリコンバレーの特徴であり、「愛のある緊張感」 を生む源泉だと言えよう。

これに対して、日本の起業家たちはどうだろうか?
様々な意義や目的はあるのだろうが、よく見聞きするのは 「如何にして事業を成功させるか」 がテーマであり、つまりは 「今よりも稼ぐため」 あるいは 「大きな経済的成功」 を目標として起業するケースだ。
そして、株式上場が経済的成功をもたらすチャンスになるので、彼らは上場自体をゴールとして目指し、到達すれば双六で言う 「アガリ」 にたどり着いてしまう。
そして、上場後はパブリックに評価される戦略やコメントが必要とされるため、とたんに 「社会貢献」 などとインスタントのパッチをあてて宣う。
だから余計に胡散臭く感じる。志が伴わないから人々は期待しないし、感動もしない。ましてや応援など、するはずがないのだ。

もっと劣悪な例では “簡単に素早くお金を儲ける方法” 等と謳って詐欺紛いの商法を展開したり、そこまでブラック / グレーではなくとも、志とは程遠い、なんともサモシイ仕事を始める若者が存在するのも事実だ。

しかし、我がニッポンは(敢えて過去形で言いますが)かつて、製造業で世界をリードした優秀な企業を幾つも輩出してきた。
これらの企業を生んだ、正に志の塊のような、魂と肉体の全てを掛けて起業し、”Made in Japan” という象徴を形づくった尊敬すべき創業者・起業家たちが多く存在した。
そして、現在の新たな産業界においても同様に、そのような方々がいらっしゃるのも事実である。

そう、「会社を作ったから、ビジョン・志などを考えなきゃ」 という順番ではなく、何か成し遂げたい事があるから、仲間を集めて起業するのである。
その “成し遂げたいこと” には、やはり大義・志が存在するべきだと、私は考える。
GoGetterzで刺激され、あるいはそもそも起業を目論む方々には是非、ご自身に問うて頂きたい。
「私のやりたいことには、志があるのか!」 ということを。 その積み重ねが、再び日本の空気を変えていくことになると信じて。

志のある起業家には、真剣な注目とアドバイスが集まる。資金も準ずる

スマート・スタート

さて、スポ根コラムだけあって、ストーリーがどうしても精神論に向いてしまう。
話が汗臭いので、もう少しインフラ的・物理的な起業環境、あるいはサポート面での起業環境について、爽やかなシリコンバレーの空気をご紹介したい。

起業は身一つで出来るとも言われる。
本当にそうだろうか?
Yesであり、Noでもあると私は思う。
想い一つで、志一つで最初の一歩を踏み出すという意味ではYesなのだが、やはりお金が必要なのも事実。
この側面で起業の二の足を踏む方も居らっしゃるだろう。

ある一時点で起業してから、自社の商品・サービスが完成し、顧客に提供できるようになり、代金を頂ける様になるまでには、それなりの時間を要する。
ビジネスの中身にも寄りけりだが、商品やサービスのR&D(研究開発)は最も重要な起業のプロセスとも言える。
志を具体にし、こだわりと情熱を注ぐ分だけ、お金も注ぐことになる。
だからこそ、R&D以外には無駄なコストを掛けたくない。

ここで言う無駄なコストとは、例えば、オフィスの賃料や家具・装飾の類であったり、電話番号や通話・ネット接続等の通信コストや、会計・財務・税務に要するコスト、或いは新たな仲間を増やすための採用コスト(紹介会社への支払い)等である。
つまり、これらはちっとも “無駄なコスト” ではなく、本来は事業継続・拡大に必要となる投資的なコストなのだ。
しかし、最も重要なR&D等の戦略費用に比べれば、やはり無駄なコストと評価せざるを得ない。

だからと言って、自宅や辺鄙な場所にセンスを感じられないオフィスを構えれば、社員の士気や採用に悪く影響しかねない。
顧客来訪時に、宜しくない印象を植え付ける可能性もある。
この時代にネット接続環境がなければ、仕事にならないと言っても過言ではないし、電話番号がない会社なんて、日本では信頼が無いのに等しい。
そして、適正な会計や納税は社会で果たすべき義務である。
悩ましい。

ところが、である。
ここシリコンバレーでは、これらのコストを最小限に抑えるためのシステムと、それを受け容れる文化・環境が存在するのだ。
コストとは、言うまでもなく「お金」と「時間」の両方である。
面倒を省き、シンプルな考え方を皆が受け容れ、合理的に、スピーディーに、スマートにスタートできるのだ。

身軽にスタートした我が社のロビー・ラウンジ

例えばオフィス。
我が社は今回 「WeWork」 というネットワーク型のシェア・オフィスを採用した。
オフィス設立に必要な初期費用が全く不要で、契約した当日から直ぐにでも仕事ができる環境が整っている。
ネット接続や電話回線などを独自に契約する手間も時間も省ける。
そして、オフィス維持に必要な、あらゆる月額固定費も抑制できるというコストメリットがある。

しかし、コスト面だけが理由ではない。
創造性に富むファシリティには、更に創造性に富む起業家たちが集まり、互いのアイデアや情報を交換しながら共棲する環境が存在する。
孤独な起業家が一人で思い悩む姿は、まず見かけない。
同じ境遇で闘う仲間がいるというのは心強いし、互いが成長する刺激にもなる。

また、給与計算や会計業務などを簡素化するソフトウェアが多数存在し、それらを使いこなすためのプレゼンテーションが毎日の様にランチタイムに行われる。
便利なツールではあっても、ハッキリ言って面白い作業ではないのだが、避けては通れない仕事であり、専任者の居ないスタートアップ(起業間もない)会社は、起業家たちが自分で行うしかない。
しかし、このプレゼンの場が人気なのだ。
理由は、ソフトウェア会社がランチをスポンサードするからだ。
正に、背に腹は代えられないし、積極的に参加するモチベーションにもなる。ナレッジも増える。

私も仲間も、こうした恵まれた環境で互いを磨きあっていけるし、訪れたゲストからもご好評を頂く。
時間とコストを掛けずに、スマートに良好な環境を手に入れた訳だが、この様な施設だけが存在しても、本質的なご利益は享受されない。
そこに集う 「志のある起業家たち」 が多いからこそ、最良な環境なのである。これは、シリコンバレーで起業する最大の特典とも言えよう。

ビジネス・スタンダード

通信インフラの面で言えば、日本は世界的に最も発達している国の一つと言える。
(私の経験上、最も劣悪な通信環境はジャカルタだ(笑)いや、笑えないレベルなのだが。)
しかし、日本でこの利点を使いこなしている企業は、ごく一握りに限られるのではなかろうか。環境的なインフラやハードは先進的でも、それに搭載されるソフトや、使いこなすべき人間のリテラシーが老朽化したまま、膠着しているのだ。

少なくとも、日本の企業群が世界的に 「最もコミュニケーション・ツールの活用に優れている」 企業群だという評価は得られないであろう。たとえ、言語の問題を除いたとしても。

例えば、電話について。
今や、固定電話の権利を得て電話番号を取得せずとも、ヴァーチャルに電話番号を取得する方法はいくらでもある。それどころか、固定電話回線を使用して通話をする必要性は極端に減少している。
実際に、我々もネット上に存在する数多のアプリケーションを用いて、顧客や関係会社・協力機関とのコミュニケーションを日常的に行っている。名刺にも、何がしかのコミュニケーション・ツールのハンドルネームやアカウントを記載している方も多い。

つまり、かつて 「電話」 は対話・会話における便利なコミュニケーション手段の一つであったが、利用時間に応じてコストが増える仕組みである。
しかし、現在は 「電話」 以外にも対話・会話の手段が数多く存在し、コストは全く異なる概念で処理される。
捉え方次第では 「無料である」 と考えることも出来る。
そうなった以上、従来の 「電話」 に依存してコストを掛ける必要性は全くと言って良い程なくなったのだ。

しかし、皆さんのビジネス / 会社ではどうだろうか?
目の前には望みもしない固定電話が当たり前の様に置かれていて、無作法に鳴ったりはしないだろうか? 受話器を取っても自分宛ではなく、誰かに取り次いだり、メモを取ったりと、自分の時間を割かれてイラっとしたり。
或いはご自身が、先方ご本人が出るか分からない会社の電話番号に掛け、相手が不在で、伝言を告げる時間や手間を強いて、相手をイラつかせてはいないだろうか?
それらの全てには、コストが掛かっているのである。
これぞ正に、無駄なコストとは言えないだろうか?

(少なくとも)シリコンバレーでは、ビジネス・シーンであってもネット上に存在する様々なサービスを活用して、取引相手とのコミュニケーションを行うことが一般的。
勿論、ビジネス・マナー上の礼節は重要だ。
しかし、効率的な手段を積極的に活用し、無駄な時間やコストを省く合理的な方法を選択することは、相手に対する失礼には当たらない。
そして、これは対話・会話に限ったことではない。

例えば、見積もりや請求書に関しても同様だ。
印刷して持参することは稀であり、郵送どころか、なんとオンラインの会計ツールからボタン一つで取引先に送信されるのである。
つまり、予算管理や売上予測を行う延長線上に、これら会計に必要なデータが保存・同期されており、改めて見積・請求書等を作成する手間が不要なのだ。請求漏れも起こりづらい。

契約書のサインにしても然り。
自著でサインすることよりも、合理的・効率的に進められる場合(つまり、ほとんどのケース)では、オンライン上のサイン・システムを用いて契約書のやり取りを行う。
自分で書く必要がないから、時間も紙も、ペンを握る力さえも不要なのである。
ちなみに私は、自宅購入という大きな買い物でさえも、この電子署名で行っている。

非効率な 「業界的慣習」 「古のしきたり」 は見直され、最も効率的かつ合理的な方法が提案される。
その新しい方法を皆が積極的に試して、改善し、新たな基準として採用する。
そうやって、フォーカスすべき事柄に時間や情熱を割くことを可能にする。
世の中の仕組み、ビジネスに求められるスタンダード自体が進化し続けているのである。

イベントで見かけた人型の営業サイネージ・レディ。キチンと会話する

甚だ無責任ではあるが、「シリコンバレーの起業環境」 は一度のコラムでは書ききれないことが分かった(苦笑)。
読んでくださった方も、そろそろウンザリする頃だろう。
次回のコラムでは蘊蓄を除いて、もっと具体的な施設や制度等について、ご紹介できればと思っているので、お許しいただきたい。

シリコンバレーは、カリフォルニアらしからぬ長雨に祟られている。
私も少々ウンザリしているが、次回のコラム掲載は4月。
季節も春めいて、どこまでも青空が広がる美しいシリコンバレーになっている事だろう。
そう、空気がパキーっとした。
 

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