福島直樹 「就活で得られる内定より大切なもの」

「すみません。ペットボトルを片付けたいのですが、どこに捨てればよろしいでしょうか」
 吉田吉蔵(仮名)君は人事担当者にそう尋ねました。
「え!?あなたは就活生なのに弊社のゴミを片付けてくれるのですか?ありがとうございます」
 A社の人事担当者は彼に感謝の気持ちを伝えたそうです。
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私は大学卒業後、博報堂という広告会社に入社しました。
その後、フリーランスとして独立し、学生向けに就職支援の仕事をしています。
自分自身の就活の経験、入社後にOB訪問を受けた経験から、真剣に人生の選択に悩む学生を応援したいと思ったからです。

大学、短大、専門学校、高校などで就職の講演会やガイダンスで話をします。
仕事がら毎年たくさんの就活生に会います。冒頭の吉田吉蔵くんもそんな中の一人でした。

しかし彼は滅多にいない素晴らしい学生だったのです。

吉田くんが人気企業A社のインターンシップに参加したところ、会社は学生にペットボトル飲料を出してくれたそうです。
「あれ、これはまずいのではないかな?」
終了後に会場を見回して彼は思ったそうです。何人かの学生がペットボトルをテーブルの上においたまま帰ったようなのです。

「このペットボトルは人事の人が片付けることになるだろう。それでは申し訳ない気がする」

そう考えた彼はペットボトルをまとめて片付け、人事の人に声をかけました。それが冒頭のエピソードです。人事担当者は吉田くんの想像以上に喜んでくれたそうです。

「すみません。あなたのお名前を教えていただけますか?」

人事担当者は吉田くんにそう言い、その後、個人的に連絡があったそうです。これがきっかけとなり、水面下での面談を経て吉田くんは早期にA社から内々定をもらいました。

そもそもインターンシップやセミナーで学生がゴミを片付ける必要はありません。それは企業の仕事です。しかし彼のちょっとした心遣いが人事の気持ちを動かしました。彼の行動から人間的な魅力が伝わり、内定につながったと思われます。

論理性や発想力、ストレス耐性、リーダーシップ。企業は学生に様々なスキルを求めます。それに対応するように就活にも多数のノウハウがあります。しかしそれ以上に大切なものがあるのではないしょうか。

人間性、人柄、人としての魅力です。
いくら自己PR、志望動機に説得力があっても、人間的に魅力がなければ、なかなか内定は得られません。いくら頭が良くても、いくら高学歴でも、自己中心的で、意地悪な学生に対して人事担当者は「いっしょに働きたい」とは思わないのです。

日本の就活、日本の新卒採用の仕組みについて、世間では様々な批判があります。確かに問題は少なくありません。しかし就活を通じて、吉田くんのように人柄の魅力を評価され、素晴らしい就活をする学生もいるのです。それまでの自分の行動を修正し、人としてより魅力的になっていく就活生を私は何人も見てきました。これこそが、私がこの仕事を続けている理由なのです。

学生さんを楽しませながら講演するのが福島流。

メディアや世間ではあまり指摘されませんが、就活は、学生が人間的な成長を遂げる貴重な機会となっています。人間的な成長を遂げることができれば、自然と内定を得ることできます。吉田くんのように、気持ちの良い就活をしてもらいたい。一人でも多くの就活生に、この事実に気づいてもらいたい。そんなことを考えて、私はこの仕事を続けています。